スリップリングは、静止体から回転体に、電力や信号などを伝達することが可能な回転コネクタです。
例えば、回転するターンテーブル上の機器に、電源や信号の配線を直接接続した場合、回転し続けると、配線が回転軸に絡まったり、ねじれたりし、最終的に断線してしまいます。スリップリングを使用した場合、ターンテーブル上にある機器からの配線をスリップリングの回転側に接続し、逆側の配線を静止側に接続することで、ターンテーブルの回転に合わせてスリップリングの回転側が回転するので、配線が絡まったり、ねじれたりすることなく、電力や信号などを伝達し続けることができます。
同様の機能を有するロータリーコネクタは、接点に水銀などの液体金属を使用していますが、スリップリングは接点に銅や銀といった金属を使用しているので、液漏れの心配がなく、環境への影響が少ないといった特徴があります。
スリップリングとは
構造と動作
スリップリングは、主に、ターンテーブルなどの回転軸と同期して回転するリング状の電極部と、静止側の配線を接続するブラシ状の電極部から構成されており、ブラシ状の電極部をリング状の電極部の外周もしくは側面に押し当てて摺動接点を形成します(図1)。これにより、回転側と静止側が導通状態となり、回転側が回転していても、リング状の電極部の一部が常にブラシの電極部に接しているため、電力や信号などの伝達を行うことができます。
1チャンネル(1組のブラシ状電極とリング状電極)で1導線分となるので、電力や信号線の極数が多くなると、スリップリング自体が大きくなります。代表的な接点の材質は、ブラシ部にはカーボン、銅、銀合金など、リング部には青銅、銀、貴金属などが使用されており、用途や価格によって選択されます。接点は接触しており、摩耗するため、摩耗粉を定期的に清掃する必要があり、一般的な寿命は1000万~1億回転程度ですが、ドイツKubler(キューブラー)社のスリップリングの寿命は最大5億回転になります。
図1:スリップリングの摺動接点の構造イメージ
図2:ターンテーブルアプリケーションでスリップリングを使用しなかった場合
図3:ターンテーブルアプリケーションでスリップリングを使用した場合
スリップリングの選び方
スリップリングは、アプリケーションに合わせて選択をする必要があります。最低でも、電力のチャンネル数や信号のチャンネル数、設置方向(水平、垂直)、回転軸の径、防塵防水性、回転スピード(RPM)を選択する必要があります。電力チャンネルについては電力の最大容量や電極数の確認、信号チャンネルの場合は、信号の種類(アナログ、デジタル、データ)も確認する必要があります。最近では信号チャンネルが非接触のタイプがあり、メンテナンスフリーでの高速データ伝送を実現しています。最低限の仕様に加えて、使用する環境に合わせて、アルミやステンレスハウジングのハイジェニックタイプを選択したり、設置方法に合わせて、回転軸側の配線を軸の内側を通すか、外側を通すかなども選択することが可能です。また、メディアを搬送できるロータリージョイント機能を有するタイプでは、油や空気といったメディアの種類を確認する必要があります。その他、多チャンネルや高速回転、大電流用など、通常のスリップリングで対応できない場合は、特注品として対応が可能です。
使用例(アプリケーション)
アプリケーションは、ボトリングマシン、ターンテーブル、梱包用装置、包装装置、半導体製造装置、メッキ装置、風力発電装置、加熱ローラー、ロボットの関節、CTスキャン、監視カメラなどがあります。
図4:包装アプリケーションイメージ
図5:ボトリングアプリケーションイメージ
液体金属を使用した回転コネクタ(ロータリーコネクタ)
スリップリングと同様に、静止体から回転体へ電力や信号などを伝達できる物として、ロータリーコネクタがあります。ロータリーコネクタは、接点に液体金属を使用しており、大きく分けて水銀タイプかガリウム合金タイプに分けることができますが、水銀は融点が低く、低価格である為、現在でも水銀タイプが数多く使用されています。
ロータリーコネクタの接点は接触式ですが、液体金属を使用しているため、接触抵抗値が低く、ノイズが少なく、小型化が可能といった特徴があります。半面、水銀タイプは、廃棄にコストがかかり、接点部から液漏れを起こすリスクがあり、特に液漏れを起こした場合、製造ラインへの混入や健康被害といった高い危険性があります。また、RoHS指令や世界約150ヵ国が参加する「水俣条約」により、水銀を使用した製品の製造や輸出入、EUでの販売などが規制され、水銀を使用していないスリップリングへの代替が進められています。